NST便り-第21報-

「誤嚥性肺炎と老衰」について

 お久しぶりです.言語聴覚士の磯崎です.この「たより」では3回目の登場です.

今回のテーマは,「誤嚥性肺炎と老衰」です.前回お話させて頂いたように,2009年から「誤嚥性肺炎」は日本人の死因の3位となりました.しかし,2017年に,この状況が大きく変わります.この年,「誤嚥性肺炎」は突然5位へと下降し,2018年に入れ替わるように3位に浮上したのが「老衰」です.

僕の立場では詳細は分からないですが,考えられることとしては,高齢化が進んで国民の3割が高齢者となり,脳血管疾患の治療結果で死亡率が減少し,後遺症は有するが,命を奪う病気ではなくなった…また,誤嚥性肺炎は特別の疾患ではなく「老化現象の一つ」ととらえられるようになったということです.

この受け取り方は,本当に人それぞれだと思います.もちろん,若年でも脳卒中による嚥下障害によって肺炎に罹患される方がいたり,「高齢」と言っても70歳代で非常に元気な方もたくさんおられます.本人や,周囲の方の感じ方は様々でしょう.

ここからは,少し僕の話になります.

僕の祖父は大酒飲みで,我がままな田舎の漁師でした.もう10年程前に亡くなりましたが,亡くなった日のことを今もよく覚えています.とある病院の緩和病棟にお世話になり,概ね本人の意思を尊重してくれました.もちろん食べるものも自由でしたが,祖父は85歳を超え,老齢による嚥下障害が有りました.

僕は幼い頃から祖父が大好きだったこともあり,亡くなる前の数日間を祖父と過ごしました.無くなる前日,鼻から酸素を吸い,咳込みながら焼酎をチビチビ飲み,刺身をちょっとずつ食べて,テレビで「笑点」を見る祖父.

もう満足に呼吸もできず,すっかりやせ細って「尻が痛い…」と座ってもいられない祖父を見ながら,きっと人が亡くなる時は,みんな泣いて,本人も苦しんで…と考えていました.でも祖父はとても「普通」でした.

「(危ないから)食べちゃダメ」「(危ないから)歩いちゃダメ」と娘たち(僕の母達です…)にいつもどやされていた祖父は最後にまた自分らしい生活を取り戻しました.祖父は「誤嚥性肺炎」で亡くなったのではなく,「老衰」という経過で亡くなりました.

おそらく,これが「老衰」の正体だと思います.

長くなりましたが,強調したいのは「その人らしい人生」を実現する上で,「食べる」ということは非常に重要だということです. 自分で食べられるということが大きな「良いこと」で,周りの人たちもそのように助けてあげられたら良いと思います.それはまた,広い意味での「健康」に繋がるからです.

せっかくですので,ご家族や,身近な方で,「摂食」に関して気になることがありましたら,言語聴覚士にもご相談いただければと思います.

磯崎孝輔