NST便り-第15報-

「嚥下障害と日本」

お久しぶりです。 言語聴覚士の磯崎です.

この便りでは2回目の登場になります.

「あっ」という間に順番が.....時の流れの速さを感じています.....

今回は,僕の専門分野の一つから「嚥下障害」について話したいと思います.

日本で「嚥下障害」が注目されるようになったのは1965年(昭和40年)くらいからだと言われています. 医療が発展した結果,日本人の平均年齢は80歳代へ.さらに,脳血管疾患で命を奪われることが減り,代わりに後遺症を患いながらも,家庭,社会へ復帰できる方も多くなりました.

その結果,加齢による身体機能低下や,脳血管疾患の後遺症として運動麻痺や反射の障害で「誤嚥性肺炎」と呼ばれる現象が起きてしまうことが多くなった.....というのが,「嚥下障害」の簡単なご紹介です.

ちなみに,「肺炎」は,2018年には日本人の死亡原因の3位にまで急上昇しました.世界的にも高齢化が進み,近年は高齢者の肺炎を「老衰」ととらえる医師も増えてきていますが,それほど一般的になってきたということが言えると思います.

さて,統計データ上では,実は日本は「嚥下障害大国」と言われたりします.それは,「肺炎死」,「窒息死」ともに,世界で一番多いからです.これは先に書いたように,外国では「老衰」と判断されることが,日本では「肺炎」という病名でデータ上記録されることも理由の一つと考えられますが,また一方で,日本人が嚥下障害を克服しようと努力してきた結果でもあると,僕は考えています.

「世界で最も,肺炎死,窒息死が多い」というデータは,それだけ嚥下障害に焦点を当てて評価が行われているという結果です.当然ですが,脳血管疾患が日本だけ特別に多いわけではなく,高齢化も日本だけで起きている現象ではないので,嚥下障害が日本にだけ特別多いわけではないのです.

嚥下障害の克服については歴史が浅く,必ずしも研究が進んでいない部分も多々ありますが,日本はその中では取り組みが進んでいると思います.その要因としては,元々の勤勉さもあると思いますが,僕個人の意見としては,日本人は「食べることに対してのこだわりが特別強いから」だと思っています.だしや食材などの味へのこだわりから,食事の作法まで.......食べることに対して,われわれ日本人には特有の文化と歴史があります.これが,日本人が嚥下障害の克服に向かう努力の原動力になっているのだと思います.

ただ栄養を摂るためだけに食べるのではなく,「楽しみ」としての文化が確立している日本.それが今,医療・福祉の分野でも大きな力になっている.

僕もおいしいものを食べるのが大好きです.これからも江別谷藤病院,NSTの一員として皆さんの「食べる」という楽しみを,微力ながら支えていけたらと思います.

これからもよろしくお願い致します.